東京とシンガポールで投資コンサルタント会社を経営する岡村さん。マッキンゼー&カンパニー、アドバンテッジパートナーズでの仕事を経験してきた彼が、二つの国で起業に至った経緯とは?シンガポールが国際ビジネス都市として発展した背景などと併せてお話をうかがった。
プロフィール
① 政府がベンチャー支援に力を入れており、ベンチャーへの投資額は2010年から2014年で100倍以上
② グローバル化が進んでおり、欧米でのビジネス経験があればほぼ流用できる
③ シンガポールのIT系人材は、マネジメントを行う立場ならば高い報酬を得られ、ベーシックな職種だと低い報酬しか得られない
④ 事業が成功した場合のリターンが大きいため、東南アジアの周辺国から多くの起業家や若者が訪れる
-起業するまでの経緯を教えてください。
もともとは、学生時代に就職活動の軸が2つあったことに始まります。1つは、理系のスキルが生かせるビジネスの領域で活動したいと思ったこと。もう1つは、いつかは起業をしようと考えていたことです。
そのため、起業に十分な資金が得られ、かつ人脈を作りやすい、外資系のコンサルタントや投資銀行を中心に就活を行い、マッキンゼー&カンパニーへ入社しました。
そうしてマッキンゼー&カンパニー、PEファンドのアドバンテッジパートナーズを経た後、2010年日本にて、外資系証券で資産運用に携わってきた妻と二人で、富裕層に向けて投資コンサルティングを行う株式会社S&S investmentsを立ち上げました。
-シンガポールで起業をしようと考えた理由を教えてください。
きっかけは東日本大震災後に余震が続く中、当時乳児だった子どもがナーバスになっていたので、気分転換を図ろうとシンガポールへ旅行したことです。
シンガポールを選んだ理由は、地震がない国だということと、当時話題だったカジノリゾート「マリーナベイサンズ」に行きたいということでした。その時点で、シンガポールでのビジネス展開は考えていなかったのですが、世界中の富裕層がシンガポールに集まってきているという話は、知り合いからよく聞いていました。
それから2年ほど経った頃、事業基盤が整ったことに加え、資産運用のアドバイスをしているお客様の中で、「シンガポール移住」に関するお問い合わせが増えてきたことに気付きました。そのことがきっかけとなり、シンガポールでの起業を意識し始めました。
さらに、夫婦でシンガポールのグローバルな教育環境に関心を持ったことも、きっかけの一つでした。私たち夫婦は二人とも日本の教育環境で育ったため、外資系企業に就職した際には、揃って英語に苦労しました。その経験から、海外での子育てを検討するようになったんです。
そうした経緯から、2013年にシンガポールで、海外移住のアドバイス事業を行う株式会社Pan Asia Advisorsを設立いたしました。
-現在の事業内容について教えてください
事業のメインは、顧客への資産運用のアドバイスや海外でのプライベートバンキングの口座開設サポート、運用方針の決定などです。加えて、富裕層を中心に海外移住のニーズが拡大しているので、住居やビザの取得、お子様の学校選びなど生活全般までサポートしています。
これは、米国ではファミリーオフィスと呼ばれる形態で、主に富裕層を相手に、プライベートバンクや投資銀行などがサービスを展開しています。
-ご夫婦で起業されたとのことですが、お二人の役割分担はどのようにされているのでしょうか?
妻は株式会社Pan Asia Advisorsの代表取締役として、子どもと一緒にシンガポールに常駐しています。これから移住する方、もしくは移住を検討されている方を対象としたサポートが主な業務です。他にも、シンガポールを中心にアジア全域をカバーして、新たなビジネス展開の可能性を探るということも行っています。
私自身は東京とシンガポールを2~3週間ごとに行き来しながら、それぞれのお客様へ投資・資産運用のサポートをしています。
-シンガポールでのビジネス事情について、おうかがいします。シンガポールに起業家や優秀な人材が集まってくる理由について、岡村様はどのようにお考えでしょうか?
シンガポールはかつて、エネルギー・資源・食料など何ひとつ自給できない国でした。50年前にあったマレーシアからの独立も半ば見捨てられるような形でした。
そういった状況で、初代首相リー・クワンユーは、「公用語を英語に」「規制を可能な限り撤廃」「税率を下げる」などの政策方針を取り、海外企業を呼びこむことや工業国家を目指しました。これに対し国民が一丸となって取り組んできた結果が、今の国際ビジネス都市としてのシンガポールにつながっていると考えられます。
ビジネスのしやすさや資金、人的ネットワークは集積すればするほど相乗効果が働いていくので、東京をはじめとした今の日本の都市が追いつくのは困難なほど、シンガポールは成長しています。
-シンガポール政府による企業への優遇措置では、どういったサポートを起業家へ行っているのでしょうか?
以前からシンガポール政府はベンチャー支援に総力を挙げていて、年々それが形になってきています。シンガポールでのベンチャーへの投資額は2010年から2014年で100倍以上にもなり、2014年の日本全体のベンチャーへの投資額を抜きました。
シンガポールのベンチャー誘致担当の官僚は、自分のボーナスが誘致した企業の企業価値と連動するため、ベンチャー支援に対する熱量やスキルが、日本の公務員とは全く違うと考えています。
例えば、起業家は自分から話を持っていかなくとも、「こうした制度があるから利用してほしい」と誘致担当の官僚からアドバイスをもらえるなど、シンガポール政府は積極的に起業家を支援しています。
シンガポールのベンチャー支援制度については、ビジネスの状態が良ければ、国籍を問わず世界中の誰でも利用できます。もちろん、日本人が起業する際も同様です。
-シンガポールで働く際に押さえておくべきルールなどはありますか?
シンガポールは本当に多様な都市なので、独自の商習慣などについて存在を意識させられることはほとんどありません。もちろん個人差はあると思いますが、欧米でのビジネス経験があれば、言語も含めてほぼそのまま活用できます。
シンガポールと東京を行き来していると、東京でのビジネスのグローバル化、多様化がいかに遅れているかをいつも実感します。
-シンガポールにおけるフリーランスの割合はどのくらいでしょうか?
シンガポールでは、最も優秀な人材は官僚に、次に国営などの大企業を目指す傾向が見られ、起業する人やフリーランスの人はそれほどいませんね。
逆に、シンガポールで成功すれば自国とは比較にならないスケールになることから、インドネシアやマレーシア、フィリピンなど東南アジアからは、多数の起業家や若者が働きに来ているようです。
-シンガポールのシステムエンジニアやWebクリエイターなど、IT人材の給与水準はどのくらいなのでしょうか?
スキルや立場によって変わってきます。マネジメントを行う立場であれば、日本よりはるかに高い報酬が得られます。逆に、雇われる側で職種もベーシックなのであれば、ライバルは優秀で人件費の安い東南アジアの人材になるので、日本より安い報酬しか得られません。
-日本のエンジニアなどのIT人材が、グローバルな環境で活躍するために必要になるのは、どのようなことでしょうか?
「日本人だから●●」という考え方をやめて、シンガポールなどグローバルな環境でどんな形でも仕事をすることですね。
シンガポールにいるとよくわかりますが、ビジネスにおける国境がなくなりつつあります。そのため、英語やある程度のマネジメントスキルなど、最低限のビジネスリテラシーを身につけていないと、ITに限らずどの業種でも活躍するのは難しくなっていくでしょう。
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