東京や福岡でグラフィックデザイナーとして活躍。その後、夫が農業生活をするため共に種子島へ移住。デザインの「需要」も「概念」も都会とはまったく異なる離島で、どのように仕事をし、地域の人やものなどと関わっていったのか。日々の生活や仕事環境はどのようなものなのか。「農家デザイナー」を目指す小野寺さんに離島でのデザインの可能性を聞いた!
プロフィール
① 音楽をガンガンかけながら子どもをおぶって仕事
② 物を作る際の予算の中にデザイン料金が含まれていないことが多い
③ 分業化されているビジネスが少ないためフリーランスのような働き方をしている人が多い
④ 台風の時は停電が起こるためバックアップは必須
-グラフィックデザイナーというと、都市部でバリバリ仕事をしているイメージがありますが、 小野寺さんはなぜ、種子島で働くことにしたのですか?
2012年に家族で種子島へ旅行に来た時、とても島を気に入り、それから半年、あれよあれよという間に旦那が農業をする為に「家族で移住する」ということになって(笑)。 私自身は、島ではデザインの需要はまったくないだろうとポートフォリオも持たず手ぶらで移住したんです。
ところがある時、市役所の方と話す機会があって、特に考えなく「デザインをしていた」という話をしたんです。すると意外にも相手にすごく興味を持って頂いて、そこであわててポートフォリオを作成してお見せしたんです。それがきっかけで、一番はじめにお祭りの手ぬぐいのデザインをさせていただきました。
移住したての頃は、以前の仕事関係のつながりで依頼が来たり、インターネットのフリーランスデザイナーに登録して、お仕事をいただいていました。そんなことをしている内に、いつのまにか屋号を持つ事となり、市の商工会にも入り、県のデザイン業のエキスパートとしても登録させていただいて、種子島、屋久島、また日本全国からのデザインのご相談にも乗るようになっていったんです。
-種子島と東京との仕事環境の違いってありますか?
東京にいたときは、保育園に子供を預けて、ヘッドホンで音楽を聞きながら自分の世界を確保して、地下鉄や電車にのってお客様のところへ行って提案をしていました。それが今では、青い空と青い海と赤いハイビスカスが広がる中、車の窓を開けて風を入れながら、ガンガンに音楽をかけて、背中に子供をおぶいながらご提案に向かいます。 同じデザインの仕事でも、この環境でできるのは本当に嬉しいですね。
-仕事の内容に関して変化はありましたか?
私のデザインのひとつ一つが“地域のイメージ”にかかわるので、今までとは違う責任の重さを感じます。とても難しいけど、とても面白いことをさせてもらっている。楽しんでお仕事をさせてもらっていますね。
それと、都会にいた時と意識が変わりました。今までは「会社の為のデザイン」だったのですが、今は「社会の為のデザイン」というような感じです。現在は“デザイン”が、島=日本をひっぱっていく若い世代の方々の力になれるのではないかと思いながら、作っています。人より少しだけ絵をかいたり、ものを作ったりするのが好きだった私が、「気持ちを伝えるためのデザイン」を勉強し始めて、それを必要としている方がいる所に住んでいる…。今、自分にとって本当のデザインの仕事をさせて頂いている気がしています。
また、インターネットを通じて、種子島にいながら日本全国のデザインをさせていただけることも、ほんとうに面白いなとおもいます。世界のデザインのお仕事も種子島から発信してみたいですね。
-働く際に抑えておくべきルールや文化の違いってあるんでしょうか?
地方だと、“デザイン”というものが「高い垣根の向こうにある」と思われているように思います。また、“デザイナー”という仕事は、「上から目線の仕事なのではないか」と思われていたりします。まったくそんなことはないんですけどね。 どんな仕事も根底は同じ。「もっとこうすればよくなるのにな」「おもしろくなるのにな」と感じる日々の思いを形にしていくのがデザインなので、「昔からある商店街の看板屋さんだ」と思って、気軽に声をかけていただければ嬉しいですね。
基本は、都会も地方も同じだと思います。お客様本人とその仕事の背景に併せて、私の対応も変えています。最初は、私の方もお客さんを知りたいし、私の事も信頼してもらいたい。そして、デザインで出来ることは沢山あるともっと知ってもらいたい。だから、じっくり時間をかけて完成までもっていけたらと思っています。
-デザイン料など、お金に関してはどういった感じですか?
都会との差を感じるのは、物を作る際の予算の中に「デザイン料金」が含まれてない事が多いということです。それから地方では、商品を作成する時に、国の助成金を使用して制作しようとする事が多い印象です。実際、最初の商品開発にかかるコストを島での販売でまかなうというのは、地方の会社だととても大変な事なんですよね。都会の大手メーカーさんなら、年度末と季節物に併せて商品制作を行う事が多いのですが、地方だと助成金がおりるタイミングにあわせて新商品が動く事が多い傾向にあります。
私個人のことでいうと、本当は一律で値段を掲示できると良いのですが、その値段を見てお客様が依頼するかどうかを悩んでいるうちに、「別にデザインしなくてもいいか!」という考えになってしまいそうなので、できるだけ鉄が熱いうちに物事を進め、相談しながらお値段を掲示させていただくようにしています。 気持ち的には「無料でも!」くらいの勢いなのですが、実質物理的にお金もかかりますので(機械/ソフトの維持、紙代、インク代など、あと生活費も)気持ちよくデザイン料金をいただけると本当に嬉しいです。 「デザインはお金がかからないもの」と思われている方もいらっしゃるのですが、なかには「掲示した金額よりも多くていいですよ」と言って下さる方もいて、その時は本当に助かります。 島内では、デザインについてお互いにおそるおそる信頼を深めていく・・・という感じです。変な噂を立てられて、声をかけていただきにくくなるととても残念なので、やはり信頼関係を築くことが大切だと思います。
-小野寺さんは、地方でデザインをする可能性について、どう思いますか?
今、島にいながら、他の地域のデザインをさせていただくこともあるのですが、どの地域の方も、「もっと、面白くて良いものを作りたい!」「もっといい商品を売りたい!」「もっとアピールしたい!」など同じような悩みを持っています。 その状況の中で、何もないところからイメージを作るのが得意なデザイナーたちが地方にちらばって、お客さまと顔を合わせて相談し合って、その地域特有の色やデザインを見つけて、「かっこいい!」を素敵にアピールできたら、日本中がもっと魅力的な国になるのではないかと思うんです。
例えばですけど、「信号」は日本全国同じデザインが多いですよね。そんな「信号」を地域特有の素材や特徴でデザインすると、それぞれの町の魅力が際立って、人々の日常生活が華やかになるのではないかと思うんです。人が自分に似合う服を着るように、町も似合うデザインをまとう事ができたらいいなと思って。 日本中、まだまだいろんなところでデザイナーが求められているのだと感じています。
-種子島には、フリーランスの方っていらっしゃるのですか?
会社を立ち上げてデザインをされている方はいらっしゃいますが、多くはないですね。 強いて言えば、農業や漁業をされている方自体がフリーランスのようなものです。都会のように分業化されているビジネスが少ないので、皆さん色々な事をフリーランスのような形でされているように思います。そして、島に移住されている多くの方は「自営」という形で何かを営んでいるようですね。 私自身は「農業も行うデザイナー」になれればと思っています。また、農作物などもデザインで面白い価値が作れないかなあ、などとぼんやり考えています。
-ネット回線の速度とコストについては、どうなんでしょうか?Wi-Fiやインフラ環境などについて教えてください。
ありがたいことにネットは光がつながるので問題ありません。自分たちでWi-Fiにしています。 ただ、引っ越しするときに回線工事がなかなかスムーズにいかず、ハラハラしましたね。 台風の時は停電などが起きるので、バックアップや事前のデータ送付などはかかせません。 あと、都会では困ったら近所にパソコンを持ってる方が100%いたのですが、ここでは自分だけが頼りです。もしも爆発したらどうしようという危機をいつも抱いています。もしそうなったら、お客様に謝りまくって急いで再度制作です!
-家賃や交通費の相場、野菜や魚の値段など、物価水準はどんな感じなのですか?
家賃は集落の方のご好意で貸していただいて月1万円ほどです。ただ、市街地にいくと、東京での安めの家賃と変わらないくらいかなと感じます。 野菜や魚は、旬の時期になると沢山いただけます。特に今、漁師の集落にいるので、旬な魚をいただけることが多く、嬉しいですね。 スーパーでも、旬な魚はとても安くて、6匹:150円とかで買えますよ。野菜は無人販売などもあるので、そこで購入したりします。
都会との差は、東京の安い掘り出し物というと、古く日がたったものが多いイメージですが、こちらの安いものは、「新鮮で旬のもの」という感じでしょうか。
こちらでは買えないけど、食べたくなる食材(例えばブラックオリーブなど)は、インターネットで購入しています。生態系をくずしてそうで若干罪悪感はあるのですが、一度覚えた味は忘れられません。ダメですね。(笑)ちなみに送料は無料のものもあります。天気が悪いと到着に時間はかかりますが、普通ですと中一日で届きます。
交通費=ガソリン代として計算すると少し高いですが、他に使うところもないので「こんなもんかな」と思っています。
-小野寺さんにデザインを依頼したいというみなさんに、メッセージをお願いします。
日々、日本中をおもしろくするために「何かないかな」と考えながら、1年中ハイビスカスの咲いている島で暮らしております。
ぜひ、お気軽にお声がけ下さい~!
onoderaizumi@gmail.com
旦那と二人でざっくり役割分担しています。幼稚園の事は大体母親の私、地域の事は旦那です。 育児と、デザイン業をバランス良く一緒にできるのが理想です。 東京ではある程度決まった流れで日々生活していましたが、こちらではフリーランスという事や、天気にもかなり左右されるので、納期だけキッチリと守り、その間の仕事の流れは、事前に計画を立てることはなく過ごしています。
ある1日の流れ
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