外資系コンサルで鍛えた戦略的思考で“アジアに新しい農作物流通の仕組みを”。タイで野菜宅配サービスを手がける齋藤祐介さん

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食品流通/農業・齋藤祐介 さん

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かつて野菜の消費量が少なかったタイ。しかし最近では健康志向が強まり、都市部を中心に生鮮野菜への需要が高まってきているという。今回は、そんなタイ・バンコクで産直野菜の宅配ビジネスを展開することで、アジアに新しい農作物流通の仕組みを築こうと取り組んでいるEmpag Pte. Ltd.のCEO齋藤祐介さんが登場。元外資系コンサルタントの経歴を持つ齋藤さんがタイで野菜の販売事業に乗り出した理由や、目指すところなどについて伺った。

プロフィール

お名前
齋藤 祐介(さいとう ゆうすけ)さん
現在の滞在国
タイ
業種
食品流通/農業
経歴
東京大学大学院 農学国際専攻を修了。農業や国際開発について学ぶかたわら、インドでのインターンや教育系スタートアップ「mana.bo」の立ち上げを経験。卒業後は、経営コンサルティング・ファーム「A.T.カーニー」で戦略コンサルタントとして活躍後、2014年8月、Empag Pte. Ltd.を石崎優氏(現COO)らとともに設立し、CEOに。現在はバンコクを拠点に、産直野菜宅配サービス「EMFRESH」と、アジア農業メディア「Agri In Asia」の運営を中心に事業を展開している。

1分で分かる「タイ バンコクで働く」ということ

①タイでは日本よりeコマースが浸透していない。特に主婦層が、また食料品を購入する場合に、オンライン購入へのハードルがより高くなる

②微笑みの国の「グレンチャイ」文化。現地スタッフは遠慮して、上司などへの発言をためらいがち。不満を溜め込み、急に辞めたいと言い出すことも

③タイでは複数回の転職に抵抗がない。3年以下で転職することは、日本よりもずっと一般的

立派な畑があるのに物乞い。インドでの出会いを機に農学国際を専攻

─齋藤さんは大学院時代、「農学国際」を専攻されていたそうですね。「農学国際」とは、食料や環境などといった世界問題の解決策を探る農学をベースにした学問だそうですが、なぜそれを学ばれたんですか?

学部時代、休学してインドへインターンに行った経験が大きいですね。インドでは貧富の差が激しく、路上生活者もたくさんいます。私が農村部を訪れた時にも、ある1人の貧しい身なりをした物乞いに出会いました。

彼は英語を話せたので言葉を交わしてみると、その時に私たちの目の前に広がっていた畑が、彼のものだと言います。それを聞いて、「こんなにしっかりした畑があるのに、なぜ物乞いをしなければならないのだろう?」と、ただただ不思議に思いました。

原因は彼の怠慢なのか、農業技術の不足なのか、あるいはインドの制度や気候によるものなのか、結局のところ分かりません。ただ、いずれにしろ彼のような境遇の人が世界中にいて、次の世紀を迎える頃になっても状況はきっと改善されないままなのだろうと、直感しました。

そして、目の当たりにしたその問題の背景を理解して、少しでも解決に貢献したいと考えて、大学院では農学国際専攻に進学しました。

研究室では農業や国際開発に関して、品種改良や土壌、農業制度、開発経済まで、幅広く学びました。経済モデルを作りながら、研究対象地域だったフィリピンの米農家から卸、政府関係者まで、さまざまな人物にインタビューを行っていましたね。

さらに研究室とは別に、ベトナム農村部でのITを使った技術教育のプロジェクトへも参加するなど、大学院時代には今の仕事にも活かせる多彩な経験を積むことができました。

─学生時代、そうした大学院での学びとはまた別に、スタートアップ企業を立ち上げられていたとか。

mana.bo」という教育系サービスの開発を、創業メンバーの1人として手がけていました。小学生から高校生までが、スマホアプリで現役の難関大生から気軽に個別指導を受けられるというもので、ビジネスモデルの構築と初期のアプリ開発を中心に、さまざまな業務に関わっていました。

他の創業メンバーとは、もともとシリコンバレーへ行くためのビジネスコンテストで出会いましたが、「mana.bo」のビジネスを通して、無から有を生み出す貴重な経験ができました。アイディアとパソコンしかない状態から、みんなでオフィスに泊まりこんでサービスを作り上げたのは、良い思い出です。

自分一人でできることは限られていますが、優秀なメンバー、仲間と一緒なら、ゼロイチの事業を作れるということ、またその楽しさを学ぶことができました。

戦略的思考を磨くためコンサルへ。そこで訪れた思いがけず早い巣立ち

─大学院を卒業された後、A.T.カーニーに入社されています。農業や教育についての事業を展開する企業ではなく、大手コンサルティング・ファームを選んだ理由とは?

実は、就職活動では農業関係の仕事に携わりたいと思って企業を探していたのですが、特に良い候補が見つかりませんでした。そこで、新卒ではビジネスの基礎力が身につくような会社に行こうと決めました。中でも当時は戦略的な思考を苦手としていたので、それを養えそうな業界はどこだろうと考えたところ、コンサル業界が頭に浮かびました。

A.T.カーニーでは、クロスボーダー(国際間)の経営統合や、消費財の価格戦略、コスト改善などのプロジェクトに関わっていました。本当に色々な経験をさせてもらいましたが、特に論点を整理する力が磨かれたと思っています。今でも仕事で難しい決断をする時には、A.T.カーニーで培った力が役に立っています。

─しばらくA.T.カーニーで戦略系のコンサルタントとして活躍された後、同社を退職して、アジアで今の農業食品関連のビジネスを起業されています。ここで、やりたかった農業関係の道に進まれたわけですね。

現在の投資家に誘われたことが、きっかけでした。正直なところ、当時はもう少しコンサル業界にいたいと思っていました。いつかは卒業する予定でしたが、予想より早いタイミングで巣立ちの時が訪れました。

─起業にあたって、不安はなかったですか?

少しはありましたよ。自分がやりたい「海外✕農業」の領域でのビジネスはかなり難しく、結果を出すまでには相応の時間が必要になることが推測できました。だから、もっとしっかり準備するべきなのではないかという思いがありました。

でも、経験豊富で尊敬できる起業家と一緒に事業を進められる機会は滅多にないだろうと思い、起業を決意しました。

─起業当初は、シンガポールが拠点だったとか。なぜそこを選ばれたのでしょう?

シンガポールには、東南アジア全域の市場を狙う人や、それに関連する情報が集まってくるためです。Empag は現在タイで活動していますが、今後は長期的に東南アジア複数国での事業展開を考えています。

─立ち上げ時の様子を伺えますか?

シンガポールでは、貸しオフィスを利用していました。小さな部屋で、3人が座るといっぱいの状態。でもそんななか、10年後に自分たちがどうなっているのか?どう社会を変えているのか?などと、大きな話をしては期待に胸を膨らませていました。

それからタイに拠点を移した後も、当初はAirbnbで借りた部屋を自宅兼オフィスとして使っていました。部屋にはたくさんの人が出入りしていたので、管理人に怪しまれているのではないかと、正直心配していました(笑)。

産直野菜の宅配。目標は「生産者」にも「消費者」にも利益がある市場

─現在は、タイを中心にビジネスを展開されているとか。

バンコクを拠点に、産直野菜の宅配サービス「EMFRESH」を展開しているほか、「Agri In Asia」というアジア農業の今を俯瞰して日本に発信するメディアも運営しています。

「EMFRESH」では日本の生協宅配のように、事前にネットまたはカタログを見てご注文いただくと、週1回ご自宅や指定のピックアップポイントまで、「EMFRESH」が契約する優良農家の農作物が配達されます。

販売チャネルは、一般消費者向けのeコマース、オフィス(法人)への宅配サービス、屋台やコンドミニアムの入り口などでの出店の3種類。配送日を限定し、お客さまから事前にオーダーをいただくことで、採れたて新鮮・安全な野菜をリーズナブルに提供できるようになったほか、新しい農作物流通の仕組み作りも行っています。

─新しい流通の仕組みとは?

既存の東南アジアの長い農産物バリューチェーンを短縮した仕組みのことです。

東南アジアの農業では、生産者と消費者との間に多くの仲介業者が存在するため、不要な取引コストが上乗せされてしまいます。また、彼らが持つ冷蔵物流技術が未熟なことから、農地では良いコンディションだった作物も、都市に運ばれてくる頃にはすでに新鮮さを失った状態になってしまうケースが多く見られます。

さらに、東南アジアでは農産物の生産者をさかのぼって調べたり、生産体制をチェックしたりすることができません。そのため、消費者は安全面で不安を抱くことになりますし、生産者は自らの生産能力によって差別化を図ることが難しいという現実があります。

「EMFRESH」では、注文や配達の方法を制限することで生産者と消費者を直接つなげ、産直という形でバリューチェーンの短縮を実現。それによって、生産者と消費者、双方ともに利益がある市場の創造を目指しています。

─なぜ野菜流通のサービスを、他の国ではなくタイで手がけようと思われたんでしょうか?

まず野菜流通を選んだ理由は、「農業経営の一番の課題は販路の確保」だということを、東南アジア各国の農業関係者からよく聞いていたことです。

「農家の方々は、規模の大小に関わらず作物が良い値段で売れる場所があるのなら、技術も磨くし、設備への投資もする。ただ、そうじゃないと時間もお金も使わない」という話を耳にしていました。それなら、まずは作物を販売できる場所を作ろう、と考えたんです。

また、舞台にタイを選んだのは、ビジネスの拠点としても生産地としても、さらに消費地としても魅力的だったからです。

特に、タイは熱帯雨林や高原地帯などバラエティーに富んだ地形と気候を有しているため、世界有数の生産量を誇る米をはじめ、トロピカルフルーツから高原野菜まで、多彩な農産物の生産が可能です。そうした農業大国としての一面は、大きな決め手になりました。

─消費地としてはいかがですか?

タイではもともと野菜の消費量が少ない状態でしたが、海外生活の経験者が増えたことで食の西洋化が進み、健康志向が強まりました。結果、生鮮野菜の需要が伸びてきているほか、タイ現地の人からも、食の安全を重視する声が聞かれるようになりました。

なかでも、安心安全な野菜へのニーズが高まっている傾向は顕著で、街中には近年、サラダショップやオーガニックショップがいっそう増えてきています。

─タイには、「EMFRESH」と同じ産直野菜の宅配サービスを手がける競合はいるんでしょうか?

直接、競合する企業はありません。しかし当然、タイにもスーパーマーケットがありますし、スタートアップの中には、そうしたスーパーの店舗から日用品をデリバリーしてくれる「HappyFresh」や、食材をレシピと一緒に宅配する「Blue Apron」のようなサービスが登場しています。

─どんな方が「EMFRESH」を利用していますか?

新鮮・安全な野菜を求めている方でしたら、日本人にタイ人、欧米人と、国籍を問わず多くの方にご利用いただいています。

ただ、実際にはタイでは思ったよりeコマースが普及しておらず、特に主婦層が、また、食料品を購入する場合には、オンライン購入へのハードルがより高くなることが分かっています。そのため事業の初期フェーズである現在は、オンラインよりオフラインでの顧客開拓に力を入れ、移動型マルシェとカタログ販売を中心に事業を進めています。

そして、オフィスへのデリバリーは完全な別事業に。毎週2回、野菜をすぐ食べられるような形にパッケージングして、契約したオフィスにあらかじめ設置した冷蔵庫へと宅配しています。食べた分だけを支払う、オフィスグリコのようなビジネスモデルですね。

最近では日系企業を中心に導入実績が増え、好調に売上が伸びています。次のステップとしては、タイ人経営の企業への展開を目指しています。

日本に届く情報には限りがある。アジア農業の今を伝えるメディアも運営

─そうして野菜の宅配サービスを手がける一方で、メディアを運営しようと思われたきっかけを伺えますか?

「Agri In Asia」は、アジア農業の最新情報を発信するメディアです。私自身、アジアで農業に関わる仕事をしてきたなかで、日本まで届くアジア農業に関する情報は限られているということを、よく感じていました。

大学院まで農業についての勉強をしていましたが、実際にその国を訪れてみると、知らないことや間違って理解していたことが沢山あるという事実に気付くんですよね。さらに、アジア農業について誤った情報を信じて、騙されてしまう人々を見てきたという経緯もあります。

そうした経験から、アジア農業の発展のためにも日本へ向けてより多くの正しい情報を発信していきたいという想いを抱き、「Agri In Asia」を立ち上げました。アジア農業に特化したニッチなメディアですが、おかげ様で近ごろは徐々に認知度が上がっています。農業関係者の方にお会いすると、読んでますよ、という声を頻繁にかけていただけるようになりました。

─現在は、代表の齋藤さんと石崎さんを含めて、何名くらいのスタッフがいらっしゃるんですか?

全部で11名です。多国籍のメンバー構成で、マーケティングからソーシング、インベントリマネジメント(在庫管理)、経理等、さまざまな業務を担当しています。

─採用はどのような方法で行っていますか?

弊社のサイト以外だと、タイ現地の求人サイトやエージェントを使っています。理想とする社会像が私たちの描くものと近いかどうか、また、個人的に成し遂げたいことが募集内容にマッチするかどうかも、重視して選考しています。

あとは、チームのメンバーとして実際に活躍しているイメージが湧くかどうかも、大事にしているポイントです。

─日本とは異なるタイの価値観や、ビジネスルールについて教えてください。

ご存知の方も多いと思いますが、タイは微笑みの国と呼ばれています。実際、笑顔が絶えない穏やかな人柄の方が多く、とても過ごしやすいですね。

ただ、ビジネスの現場では、その微笑みの文化に困らされることもしばしば。タイ人のスタッフはニコニコしながら遠慮をして、上司などへの発言をためらってしまう傾向があります。これは「グレンチャイ」といわれるタイ特有の文化によるもので、意図をダイレクトに伝えられなかったり、思うように発言できず不満を溜め込んでしまったりする問題が起きています。

過去には、直前までずっと楽しそうに働いていたメンバーから急に辞めたいと言われて、非常に驚いたこともありました。だからスタッフが不満を積もらせないよう、自由に意見が言えるオープンな社風を、つねに心がけています。

─タイのフリーランス事情について伺えますか?

私の感覚では、タイにもエンジニアやデザイナーのフリーランスはいますが、フリーランスの数自体はあまり多くないように思えます。

例えば3年以下で転職することなんてザラだというぐらい、タイは頻繁に転職をすることにあまり抵抗がないお国柄です。そのため、正社員としてフルタイムで雇用されている方も、まるでフリーランスのような感覚で働いているのかもしれませんね。

最近では、CtoCで掃除やパソコンのセットアップ、イベント運営などを依頼できるサービスも出てきていているので、今後、タイではフリーランスが増えてくることが予想されます。

─最後に、日本の読者の皆さまへPRをどうぞ。

Empagでは、タイ・日本オフィスともにインターンを募集中です。
アジアで、農業・食という社会の根幹を担う産業を変革することに興味がある人は、ぜひお気軽にご連絡下さい!

インターンシップ・採用の詳細はこちら:http://recruit-jp.empag.sg
連絡先はこちら:info@empag.sg

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