個人事業主が従業員を雇用するときに必要な手続きと注意点

事業が軌道に乗り始めると、業務量が増えてリソースがひっ迫することもあるでしょう。そのような場合、従業員の雇用が一つの打開策となります。

この記事では、従業員の雇用を検討している個人事業主の方に向けて、必要な手続きを解説します。利用できる助成金・支援制度も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。

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個人事業主が従業員を雇用するときに必要な4つの手続き

個人事業主が従業員を雇用する際には、いくつかの法的手続きが必要です。これらの手続きを適切に行わないと、後々トラブルの原因になることがあります。ここでは、個人事業主が従業員を雇用する際に必要な4つの手続きについて解説します。

個人事業主が従業員を雇用するときに必要な4つの手続き

1.労働契約関連

従業員の雇用に際しては、労働契約に関する手続きが発生します。具体的には、労働条件を明示するための労働条件通知書や雇用契約書の作成および書面での交付が求められます。

労働条件通知書には、以下の項目を記載してください。

  • 労働契約期間
  • 就業場所・業務内容
  • 始業・終業時刻、休憩時間
  • 休日・休暇
  • 賃金

また、就業規則の作成も検討しましょう。常時10人以上の従業員を雇用する場合は、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が法律で義務づけられています。仮に従業員が10人未満であっても、トラブル防止のために作成しておくと安心です。

2.労働保険関連

従業員に対する労働保険(労災保険・雇用保険)の加入手続きも必要です。

労災保険は従業員を1人でも雇った時点で加入義務が生じます。一方の雇用保険については、週の労働時間が20時間以上かつ31日以上継続して雇用される予定のある従業員が加入対象となります。

労災保険の手続きに際しては、労働基準監督署やハローワークで入手できる労働保険関係成立届および労働保険概算保険料申告書を記入のうえ、労働基準監督署へ提出してください。前者は雇用から10日以内、後者は50日以内が提出期限となります。

また、雇用保険の手続きにあたっては、雇用から10日以内に雇用保険適用事業所設置届および雇用保険被保険者資格取得届を最寄りのハローワークへ提出します。
なお、保険料は労災保険が事業主負担、雇用保険は労使折半となっています。

3.社会保険(健康保険・厚生年金保険)関連

個人事業主の場合、常時5人以上の従業員を雇用する場合に、社会保険(健康保険・介護保険・厚生年金保険)に加入しなければなりません。(5人未満の場合は任意)

手続きにあたっては日本年金機構が管轄する所定の事務所へ届け出を行う必要があります。

4.税金関連

税金面でも手続きが必要になります

提出すべき書類や手続きとその概要に関しては、以下の表をご覧ください。

提出すべき書類・手続き 期限 備考
給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出 従業員を初めて雇用した
日から起算して1ヶ月以内
従業員の雇用に際して提出が
必要になる書類であり、
税務署へ提出する
所得税の納付 原則として翌月10日まで 源泉徴収の手続きを行い
従業員の給与から所得税を
差し引く
年末調整の手続き その年の10月ごろ~
翌年の1月ごろ
「給与所得の源泉徴収票」
を従業員へ交付する
給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表 翌年の1月末まで 給与や報酬を支払った場合に
提出義務が発生し、
税務署に提出する
給与支払報告書 翌年の1月末まで 従業員が10人以上の場合
市区町村に提出する

従業員の給与計算や税金に関する手続きは複雑ですが、会計ソフトを活用したり、税理士に相談したりすることで効率的に進められます。

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個人事業主が家族を雇うときの手続きは?

家族を従業員として雇う際の流れは、基本的に一般の従業員を雇うときと同じですが「生計を一にする親族」とみなされる場合には税制上の取り扱いが異なります。

家族を従業員として雇用した場合の確定申告の方法には、「青色申告」と「白色申告」の2つの選択肢があります。青色申告は複式簿記方式により申告を行うため手続きは複雑なものの、税制面でメリットの多い方法です。対して、白色申告は先述の青色申告と比較して手続きが簡易な反面、特別控除などの優遇措置は受けられません。

青色申告を選択した場合、専従者給与の届出など通常の従業員と同様の手続きとなります。なお青色事業専従者給与を支払う場合は、「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出する必要があります。

一方で、白色申告を選択した場合、生計を一にする親族への給与は必要経費として認められません。そのため、青色申告を選択したときのような節税効果は得られなくなります。

また、社会保険の扱いにも異なる点があります。同居の親族のみを使用する事業所は、原則として健康保険や厚生年金保険の適用事業所とはなりません。

以下の記事では、個人事業主が家族を従業員として雇うことのメリットについて詳しく解説しています。併せてお読みください。
個人事業主が家族を従業員として雇うメリットは?注意すべき点も解説

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従業員を雇用するメリット

個人事業主が従業員を雇用することには、さまざまなメリットがあります。

そもそもの雇用の目的でもありますが、従業員を雇うことで業務負荷を分散させることが可能です。これにより、個人事業主自身はコア業務に集中できるようになります。

たとえば、エンジニアとして活動する個人事業主であれば、事務作業を従業員に任せることで開発業務により多くの時間を割けるようになるでしょう。

また、事業規模の拡大にもつながります。これは従業員を雇うことで受注できる案件が増え、売上アップにつながるためです。さらに、従業員それぞれが持つ知識やスキル、人脈などを活かすことで、新たなビジネスチャンスが生まれる可能性もあります。

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従業員を雇用することのデメリット

従業員を雇用することには当然、メリットだけではなくデメリットもあります。

主たるものとしては、コスト面での負担増が挙げられるでしょう。従業員に支払う給与はもちろん、社会保険料の事業主負担分や福利厚生費など、さまざまな追加コストが発生します。

また、雇用に伴う事務作業の増加も看過できません。労務管理や給与計算、各種保険の手続きなどの諸手続きに工数が割かれるというのは、難点といえるでしょう。そのほか、教育の工数も発生します。

先述のメリットと勘案しつつ、雇用の是非を検討してみてください。

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個人事業主が従業員を雇う際に覚えておきたいこと

個人事業主が従業員を雇用する際には、いくつかのポイントを押さえておかなければなりません。法律や制度についての正しい理解が、トラブルを未然に防ぎ、円滑な雇用関係を築く基盤となります。ここでは、特に重要な3つのポイントについて解説します。

業務委託は労働基準法の適用外となる

個人事業主が人手を確保する方法として、雇用ではなく業務委託という選択肢もあります。業務委託は、労働者を雇用するのではなく、外部の事業者に仕事を依頼する形態です。この場合、労働基準法の適用外となります。

業務委託の場合、委託する側と受託する側は対等な契約関係にあるため、労働時間や休憩時間、休日などの労働条件に関する規制は適用されません。また、最低賃金法や労働保険、社会保険なども適用されないため、手続きの負担が軽減されます。

ただし、形式上は業務委託でも、実態が雇用関係と認められてしまう場合があります。たとえば、業務の指揮命令を直接行っている、あるいは勤務時間や勤務場所を指定しているなどのケースです。

このような問題を避けるためにも、業務委託を選択する場合は契約内容を明確にしつつ、雇用関係とみなされないよう注意が必要です。

参考:労働基準に関する法制度|厚生労働省

アルバイトの場合も各種保険加入などの手続きが必要になる

個人事業主がアルバイトを雇う場合も、正社員と同様に各種の手続きが必要です。「アルバイトだから手続きは簡単だろう」と考えがちですが、法律上は「労働者」として扱われるため、雇用形態に関わらず必要な手続きは変わりません。

アルバイトであっても、労働条件通知書の交付は法律上の義務です。また、労災保険は1人でも従業員を雇った時点で加入義務が生じます。雇用保険については、週の所定労働時間が20時間以上で、31日以上の雇用見込みがある場合に加入義務があります。

社会保険(健康保険・厚生年金)についても、一定の条件を満たすアルバイトは加入対象となります。週の労働時間が20時間以上で、月額賃金が8.8万円以上などの条件を満たす場合、短時間労働者でも社会保険の加入対象となっています。

正社員・契約社員の法律上の違いがある

個人事業主が従業員を雇用する際、正社員と契約社員の法律上の違いを理解しておくことは重要です。それぞれの特徴を把握し、事業の状況に合った雇用形態を選択しましょう。

正社員は期間の定めのない雇用契約を結び、フルタイムで働く従業員を指します。契約期間に制限がないため、長期的な視点による人材育成が可能です。一方、契約社員は期間の定めのある雇用契約を結ぶ従業員で、契約期間は有期となります。

法律上の主な違いは、雇用の安定性です。正社員の解雇には「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要とされ、簡単に解雇することはできません。対して契約社員は契約期間満了とともに雇用関係が終了するため、更新の義務はありません。

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雇用にあたって利用できる助成金・支援制度

個人事業主が従業員を雇用する際には、経済的な負担が大きくなりがちです。

助成金や支援制度を活用することで負担を軽減できる可能性があります。下記にて、個人事業主が利用できる主な助成金・支援制度とその概要をお伝えします。

助成金名 概要 助成額
特定求職者雇用開発助成金 就職困難者を
雇い入れた場合
対象者1人あたり
30〜240万円
人材開発支援助成金 従業員に訓練を
実施した場合
区分に応じて異なる
業務改善助成金 設備投資と賃金
引上げを行った場合
最大600万円
キャリアアップ助成金 非正規社員のキャリア
アップを図った場合
措置ごとに異なる

これらの助成金は申請期限や支給要件が厳格に定められています。申請のタイミングを逃してしまうと受給できないケースもあるため、従業員の雇用を検討している段階から助成金の情報を収集しておくことが重要です。

また、各自治体独自の支援制度もあります。地域の産業振興や雇用創出のために設けられた補助金や助成金、融資制度などを確認してみましょう。これらは最寄りのハローワークや都道府県の労働局、商工会議所などで相談することもできます。

参考:【2025年】個人事業主が利用できる助成金・補助金まとめ|日本中小企業金融サポート機構

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個人事業主の従業員雇用手続きに関するよくある質問

最後に、個人事業主が従業員を雇用するうえでよくある質問を紹介します。

Q. 個人事業主が従業員を雇用するときの雇用形態にはどんな種類がありますか?

個人事業主が従業員を雇用する際は、正社員や契約社員、アルバイトのなかから契約形態を選ぶことが可能です。どの雇用形態であっても、労働基準法をはじめとする労働関係法令は適用されるため、適切な労働条件を整備する必要があります。

Q. 個人事業主が従業員を雇用するために契約書を交わすときの注意点は何ですか?

個人事業主が従業員と契約書を交わす際には、必要事項を漏れなく盛り込むことが重要です。

また、あいまいな表現は避け、具体的かつ明確な記載を心がけましょう。契約書の作成後は、従業員と一緒に内容を確認し、双方が納得した上で署名・捺印します。契約書は原則として2部作成し、事業主と従業員がそれぞれ1部ずつ保管します。

Q. 個人事業主が従業員を雇用するとどのような保険の加入手続きが必要になりますか?

個人事業主が従業員を雇用する際、「労災保険」「雇用保険」「社会保険」への加入が必要になります。それぞれ加入が義務付けられる場合の条件に違いがあるため、入念に確認しておきましょう。

労災保険は従業員を1人でも雇った時点で加入が義務付けられ、雇用保険は従業員を一定の条件で雇用した場合に加入が義務付けられます。また社会保険は、常時5人以上の従業員を雇用する場合に加入義務が発生します。

※本記事は2025年10月時点の情報を基に執筆しております。

最後に

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