有名エンジニアの「頭の中」─株式会社トレタ吉田徹生氏“無いものを生み出す喜びを感じたい”

第一線で活躍を続ける有名エンジニア。彼らが名を上げたのは高い技術力だけでなく、それをどう活用するのか、といった思考力や発想力、さらに数ある困難の克服を可能にしたマインドセットによる部分も大きいことでしょう。本シリーズでは、そんな「有名エンジニアたちの頭の中」をご紹介。
 
第2回目は、株式会社トレタ開発部でフロントエンドエンジニアを務める吉田徹生さん。日本最大のHTML5開発者コミュニティ「html5j」に参加したことでAngularJSと出会い、AngularJS関連の著作も持つ吉田さんが、オンタイムにどんなことを考え、心がけているのか、その仕事脳に迫りました。

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株式会社トレタ 吉田徹生氏の写真

吉田徹生(よしだ てっせい)
音声録音の専門学校を卒業後、TBS系列の制作会社エフ・アンド・エフ(現エフエフ東放)、HOWS、NAVER Japan(現LINE)、シンドバッド・インターナショナルなどを経て、2015年7月にトレタ入社。飲食店向けの予約顧客台帳管理システム「トレタ」のフロントエンドエンジニアとして活躍するほか、Angularの第一人者として、コミュニティなどの社外活動にも積極的に参加。著書に『はじめてのAngularJS』工学社刊、共著に『AngularJSリファレンス』インプレス刊がある。趣味は食べること。好きな言葉は「ありがとう」。

目次

“完全さ”に魅力を感じたAngularJSとの出会い
ITは業務改善のためにあるという意識で業務に取り組む
Angularのトップランナー 、トレタ吉田徹生さんの頭の中
頭の中を覗いてみたいのは、あの“小説家”

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“完全さ”に魅力を感じたAngularJSとの出会い


─吉田さんは録音の専門学校を卒業後、最初はTBS系列の制作会社、エフ・アンド・エフ(現エフエフ東放)に就職されたそうですね。これはエンジニアのスタートとしてかなり異色なのではないかと思うのですが、どのような経緯でエンジニアを目指されたのでしょう。

エフ・アンド・エフでは、TBSのライブラリ保存や貸し出しを行う部署にいたのですが、そこで映像検索システムなどを運用していたんです。システムを作っていたのはもちろん僕ではなく、外部のベンダーだったのですが、運用しているうちに興味が湧いてきて、自分でも作ってみたいと思うようになりました。
 
といっても、その会社にいるうちは自分でプログラムに関わることはできないので、受託でJavaScriptの研究や開発をする会社に転職しました。2005年ですから、ちょうどAjaxが流行り出した頃ですね。ブラウザを使ってJavaScriptだけでどんなことができるかを検証するような仕事でした。
 
―その次がLINE、当時のNAVER Japanですね。転職した理由は?
 
NAVER Japanを選んだというよりは、JavaScriptでバリバリ仕事ができるところへ行きたいという想いが強かったですね。JavaScriptで開発をできる職場って、当時はそれほど多くなかったので。
 
転職して一番大きく変わったのは、受託から自社サービスになったという点ですね。新しい自社サービスを生み出すというのは、受託と違って最初の一歩から始めないといけないし、費用対効果などについても目を向ける必要があるので、ビジネスの仕方がガラッと変わりますよね。
 
時間とコストをかけてリリースしたサービスが成功するかどうかは、実際に運用してみないと分からないのでリスクもあります。
 
チームで仕事をする楽しさを知ったのもこの頃です。自社サービスの立ち上げには、当然ですが企画担当や営業担当なども関わってきますし、なんといっても新鮮だったのはデザイナーとのやり取りがあったことです(笑)。
 
当時はスマホも機種ごとに見え方が違うような時代なので、時間をかけて微調整をしながらブラッシュアップしていくのは新鮮でしたし、そうやってチームでサービスをよくしていくというのも、受託では味わえない醍醐味だったかなと思いますね。
 
―吉田さんは、かなり早い時期からAngularJSを使い始めていますよね。時期的にはちょうどNAVER Japanに在籍していた頃だと思うのですが、AngularJSに出会った時に感じた魅力というのはどんなことだったのでしょう。
 
僕がNAVER Japanで担当していたのは、NAVERまとめやフラッシュマーケティングのショッピングサイトでした。その後、所属していた事業部がNHN Japanを経てLINEに継承されてからは、LINEアンケートなどを手がけていましたが、主に使っていたのはjQueryやBackbone.jsでした。

そんな中AngularJSを初めて知ったのは、白石俊平さんが代表を務めていた勉強会「html5j」です。最初に感じたのは「これは完全なフレームワークだ」ということでした。
 
jQueryはDOMを操作するためのライブラリですし、Backbone.js はJavaScriptでMVCを使いやすくするためのライブラリですよね。これに対してAngularJSはライブラリなども含めてフルスタックで、ほぼ単体でSPAを作れるという点が大きな魅力でした。

PCの前に座り自身の経歴について語る吉田氏の写真

 
2way data bindingもAngularJSの特徴ですね。バグの温床になりやすいユーザー入力からのデータ変更や、ビューのレンダリングの同期を暗黙的に巻き取ってくれるので、エンジニアにとっては効率的に仕事を進められてありがたいなと思いました。

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ITは業務改善のためにあるという意識で業務に取り組む


―吉田さんは所属されていた事業部がLINEに継承された直後に、シンドバッド・インターナショナルという会社に移られていますよね。そのままLINEで開発を行うことは考えませんでしたか?
 
LINEに移行する時期というのは、市場を開拓していく面白さがあったんですよね。もちろんLINEでそのまま続けるという選択肢もあったとは思うのですが、ITがまだ行き届いていないところにITを浸透させるというのは、やりがいがありそうだなという思いもありました。
 
シンドバッド・インターナショナルというのは教育分野の会社で、ちょうどその頃、「スタディ・タウン」というeラーニングサイトを始めていたんです。僕の友人がこの会社にいて、「手伝わないか」と声をかけられたのがきっかけですね。当時はeラーニングの黎明期で、エンジニアとして「ないものを作る」というところにワクワクしたのを覚えています。
 
実はトレタもこの延長線上にあるんですよ。シンドバッド・インターナショナルは教育分野、トレタは飲食分野という違いはありますが、いずれもITの浸透度がまだ低い分野で、市場を開拓していくという点にやりがいを感じたんです。
 
―トレタに入社した理由はどのようなものだったのでしょうか。
 
食べるのが好きだったからです(笑)。半ば冗談に聞こえるかもしれませんが、実はけっこう重要なんです。ITで新しいサービスを作る、市場を開拓するといった時に、自分が好きなことならより前向きになれるじゃないですか。
 
トレタは店舗を対象にしたサービスなのでBtoBではありますが、その先にはお店を利用するコンシューマーの存在があります。彼らが便利に使えてこそ、お店の利益にもなります。僕もお客としてお店を利用するわけですから、つまりトレタが広まるということは、僕自身も便利になるんです(笑)。
 
―ITを浸透させるという中で、吉田さんはどんな思いで仕事をされているのでしょう。
 
ITを浸透させること自体が目的なのではなく、業務改善をしていくんだという意識は強いですね。
 
トレタは、飲食店向けの予約/顧客管理サービスです。Web予約機能も提供しているので、店が休みでもお客さまご自身にウェブで予約を入れてもらうことができますし、お店側は電話予約にかかっていた手間や人件費を、サービスや料理に振り分けることもできる。
 
僕自身、店舗の方と話す機会も少なくはないのですが、業務改善に役立ったと言われるのが一番うれしいですね。トレタは予約を受けるだけでなく、顧客台帳の機能もあるので、業務改善で役に立てる可能性はまだまだあると思っています。これからもITを社会の隅々に行き渡らせることで、たくさんの便利を提供していければと思っています。

Angularのトップランナー 、トレタ吉田徹生さんの頭の中

Angularのトップランナー 、トレタ吉田徹生さんの頭の中のイメージ画像


─では、吉田さんがエンジニアとして、また1人のビジネスパーソンとして、オンタイムにどんなことを考え、心がけているのか、教えてください。

1.「脱ネガティブ」

気持ちをコントロールして、嫌な気持ちを溜め込まない
 
仕事って、つねにすべてがスムーズに運ぶわけじゃないじゃないですか。だからこそネガティブにならないよう、楽しく仕事をした方がいいと思っています。
 
例えば自分が担当したプログラムに障害が出た場合など、原因を突き止めて次に生かすことはもちろん必要ですが、気分的に落ち込んでしまうと、ネガティブな感情を溜め込んでしまいますよね。そんな時は「ここで障害が出たのは、次に同じ障害が出るのを防止することにつながる」と考えれば、引きずらずに済みます。
 
自分で気持ちをコントロールして、マイナスをプラスに転換することで、仕事が「嫌なこと」にならず、結果的に上手くいくんだと考えるようにしています。

2.「価値あるサービスを提供できているか」

お店と一緒にサービスを育てていけるのがやりがいになる
 
ITはあくまでもツールなので、使う人にとってきちんと役立っているかどうかはつねに意識しています。エンジニアがいくら「これは役立つはずだ」と思っても、いざ使ってみたらかえって面倒になってしまったのでは意味がありません。
 
そういう意味ではお店で実際にどのような使い方をしているか、使ってみてどう感じたかは、とても興味があります。お店の担当者に話を伺うと、こちらが想定していなかったような使い方をしていることもあって、それがシステム改善や新機能のヒントになることもあるんですね。
 
単にサービスをリリースして終わりではなく、本当に役立っているかどうかをしっかり検証して、お店と協力しながらより便利なツールに育てていければと考えています。

自身の仕事に対する考え方について話す吉田氏の写真

3.「積極的な社外活動」

コミュニティを通じて人とのつながりを広げる
 
メンバーになっているAngular Japan User Groupを始め、社外のコミュニティや勉強会などにはなるべく積極的に参加するようにしています。
 
Angular Japan User Groupでは年に一度、ng-japanという大規模なイベントを開催していますし、そういう集まりに参加することで新しい情報を得られたり、人とのつながりが増えたりして、場合によってはステップアップにつながることもあります。実は僕がトレタに来たのも、NAVER Japan時代にTitanium Mobileの勉強会を主催していて、当時エバンジェリストを務めていた現CTOの増井と出会ったのがきっかけです。
 
正直に言うと、勉強会だとどうしても時間の制約があるし、自分のペースだけではできないので、勉強するだけなら1人でやるほうが速いんですね(笑)。ただ先ほども触れたように、コミュニティを通じて人とのつながりができるというのが大きいんです。
 
勉強会で知り合った人とは、勉強会以外のところでも連絡を取り合えるし、自分1人では解決できないことも聞ける。そういう付随するものも含めて、社外活動は僕にとって大きな意味を持っています。

 4.「専門外のことにも挑戦」

エンジニアとして視野を広げるという意味でも有効
 
エンジニアにはそれぞれ得意分野や専門性があるものですが、僕は専門外のことに挑戦するのも大事だと考えています。
 
自分のキャリアの中でいくつかの会社で働きましたが、例えばLINE時代にはフロントエンドをやっている時でも、自主的にサーバーサイドやインフラについて勉強していました。
 
こういうのって、「やっておけば必ずこれに役立つ」というものではないと思うんですよね。僕の場合は、たまたま実作業でも役立ったことはありますが、そういう機会が無かったとしても、絶対に損にはなりません。自分がやりたいことについて思いがけず答えが見つかるとか、抱えている課題を解決するヒントが見つかるとか……。視野を広くするという意味でも有効だと思います。

視野を広げる大切さについて話す吉田氏の写真

5.「最新技術をチェック」

エンジニアたる者、新しいものには興味を持って関わるべし
 
やはりエンジニアなら新しい技術には興味を持っておきたいですよね。「専門外のことにも挑戦」でも触れましたが、最新技術についてもいつ使うのか、そもそも使うかどうかも分からない、という点では同じです。
 
だけど発表されたばかりの技術を、いきなり仕事で採用するわけにはなかなかいかないし、何年か経って業務に活用できるレベルになった時に覚えようとすると、ゼロからのスタートになるので大変ですよね。かじった程度でもいいから少しの知識があれば、それが突破口になることもあるはずです。
 
実際、HTTP/2は5年ほど前に仕様が策定され始めましたが、当時、記事を読みながらnode.jsで実装していたことがあり、その知識と経験が仕事に生きたこともあります。義務ではないからこそ自主的に最新技術に関われるかどうかが、エンジニアとしての成長を左右すると考えています。

6.「エンジニア以外とも付き合う」

多様な価値観や柔軟なものの見方を身に付ける
 
エンジニア同士が連携したり情報交換したりするのはとても良いことですが、考え方がエンジニア寄りに偏ってしまう危険性があります。色んな立場の人と知り合い、その人たちの考え方に触れることは、エンジニアとしての自分の視野を広げることにつながると思います。
 
トレタのユーザーは飲食店ですが、お店のオーナーさんや利用客、さらにはお店を補償する保険会社などの立場で考えれば、エンジニアの視点では見えない改善点に気付けるかもしれません。
 
それと、僕はゴールを設定してからそこまでの道筋を考えるタイプなんですが、もっと感覚的に、時には明確なゴールを定めないままで走り出してしまう人っていますよね。意外とそういう人のほうが大きなブレークスルーに辿り着いちゃったり……(笑)。
 
まあ、そこまで極端ではないにしろ、柔軟な考え方ができるようになるという点で、エンジニア以外の人と接して多様な価値観やものの見方を知るというのは、とても大事なことだと感じています。

7.「オフタイムを真剣に過ごす」

自分の思い通りにできるのが趣味のいいところ
 
これはオフタイムの話になってしまうのですが、オンタイムをより充実したものにするという意味で挙げたいのが、遊びこそ真剣にやるということです。
 
エンジニアの仕事って、チームで動いているしクライアントもいるわけで、すべてが自分の思い通りにいくわけじゃないですよね。どうしても妥協が必要になる。もちろんそれが悪いわけではなくて、色んな人の意見が生かされるから1人ではできないこともできるようになるし、チームで1つの成果を出すことには、達成感もあります。
 
でも遊びの時、例えば自分の趣味に没頭する時というのは、100%自分の思い通りにできるので、そんな時くらいは自分のやりたいようにやってもいいのかな、と。
 
中には、オフタイムはダラダラ過ごしたいという人もいると思いますが、そういう人は真剣にダラダラすればいいんです(笑)。オフタイムには、仕事のことを意識的に頭から外して思い切り集中してこそ、心身ともにリフレッシュできると僕は思います。

オフタイムの過ごし方について話す吉田氏の写真

8.「アウトプットをしっかりやる」

インプットしたものを整理して知識を自分のものに
 
エンジニアなら誰でもある程度はプログラムには興味があるはずだし、自分が覚えたいと思ったら勉強もしますよね。そういう意味では、インプットはそれほど難しいことではありません。ただ、インプットしたままだと本当に使える知識にはなっていないと僕は思います。
 
机の上でも引き出しの中でも、整理整頓されていないと必要な時に必要なものが見つかりません。それと同じで、インプットした知識は自分の中で体系的に整理されていてこそ、本当に役立つのだと思います。では、整理するために一番有効な方法は何かというと、アウトプットすることなんです。
 
アウトプットの形は何でもいいと思います。僕の場合、本を書いたり講演したりといったこともその一環ですが、ブログでもツイッターでも、なんならメモでも構わない。それから、GitHubもアウトプットの形態としてはアリですよね。知識を自分のものにするために、アウトプットを心がけることは近道になると考えています。 

頭の中を覗いてみたいのは、あの“小説家”


─吉田さんの仕事脳について伺ってきましたが、吉田さんご自身が頭の中を覗いてみたいと思う人はいますか?
 
ざっくりいうと、小説家ですかね。僕はAngularJSに関する本を書いたことがあるんですが、その時に「日本語って本当に難しいな」と思いました(笑)。小説家ってまったくゼロから世界を作り上げて、それを日本語で表現するわけで、どんなふうに書いているのか興味があります。
 
中でも僕は推理小説が好きなんですが、推理小説って犯人がいて、トリックの道筋があって、推理のつじつまが合っていないと成り立ちませんよね。エンジニアの仕事も、ゴールを設定して、そこに向けてコードを書いて道筋を作っていく作業なので、どこか重なるところがあるのかなと。例えばミステリー作家の森博嗣さんの頭の中なんかは、特に覗いてみたいですね。
 
─今後の吉田さんについても教えていただきたいのですが、3年後にご自分の仕事脳はどう変わっていると思いますか?こうなりたい、といったことがあったら教えてください。
 
エンジニアとして良い仕事をしていきたいという基本的な姿勢は変わらないと思います。ただ3年前と今とを比べると、自分の考え方はやはり違ってきているんですよね。
 
3年前、自分が仕事に取り組む際には、すでにある技術や自分のスキルをどう使えば実現するかということだけを考えていました。このこと自体はエンジニアとして間違いではないと思いますが、今はそれに加えて、「そもそも本当にそれが必要なのか?」ということも考えるようになりました。
 
この業界はとにかく動きが速いので、自分の3年後を正確に見通すのは難しい。直近の3年間でもそういう変化があったわけですから、これからも色んな変化があるんだろうなとは思います。
 
それと、僕自身もう若手という年齢ではないので、後進を育成するとか技術以外の部分にも手を広げていくといったことにも、気持ちが向きつつあります。まあ、まずは若い人たちに置いていかれないようにするのが先決ですけどね(笑)。
 
─ありがとうございました。

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本記事の吉田さんのように、ITを社会の隅々にまで行き渡らせたいと考えているエンジニアの皆さん。その第一歩をレバテックと一緒に踏み出してみませんか?

※記事内容は、2017年6月中旬取材時点での情報を元にしています。

最後に

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