個人事業主が従業員を雇用するときに必要な手続きは?保険・税金・助成金の基本

この記事でわかること
  • 個人事業主が人を雇う際の手続き
  • 労働保険や社会保険の概要
  • 従業員の雇用を維持する際の支援制度

個人事業主やフリーランスの中には、もっと売上を拡大したいのに人手が足りないと悩んでいる人がいるのではないでしょうか。実は個人事業主でも、パート・アルバイトのみならず、契約社員や正社員を雇うことができます。

しかし実際のところ、人を雇う際の手続きは煩雑なのも確かです。そこで本記事は、個人事業主が従業員を雇用する際のプロセスと注意点をご紹介します。

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目次

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個人事業主が従業員を雇用するときの手続き

従業員を雇用するときの流れは以下の通りです。

  • 雇用形態を決める
  • 採用活動を行う
  • 必要な書類を作成する
  • 所轄の場所に提出する

雇用形態はパート・アルバイトなどの非正規雇用として雇うか、正社員として正規雇用するかの大きく2通り。業務の状況にあった雇用形態を選択しましょう。

個人事業主の採用活動は、知り合いづてで探したり、SNSで募集をかけたりするケースがあります。ハローワークをはじめとして、無料で求人を掲載できるサービスもあるので、探してみるとよいでしょう。

採用ができたら、労災保険や雇用保険など必要な書類を作成します。書類提出場所は、労働基準監督署・公共職業安定所(ハローワーク)・年金事務所・社会保険組合・税務署など書類によってさまざまです。

なお、個人事業主の請求の仕方について詳しく知りたい方は、以下の記事をチェックしてみてください。
何を記載すれば良い?請求書の書き方と注意すべき点

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人を雇う際に覚えておきたい雇用形態のポイント

人を雇う時、まず考えなければならないのが雇用形態についてです。ここでは、雇用形態のポイントを解説します。

パート・アルバイトは気軽に雇えるとは限らない

正社員よりも週あたりの労働時間が短い人をパートタイム労働者と呼びます。法律上は、アルバイトとパートに区別はありませんが、パートは主婦・主夫、アルバイトは学生やフリーターを連想することが多いようです。

パート・アルバイトは気軽なイメージを持たれがちですが、正社員と同様に労働条件通知書を作成して通知する義務が法律によって定められている点には注意しましょう。

パート・アルバイトを雇うメリットとしては、昼間や土日など人手が不足するタイミングにあわせて人員配置ができることが挙げられます。

参照:厚生労働省|パートタイム労働者の適正な労働条件の確保のために

正社員・契約社員の法律上の違いは1つだけ

フルタイムでしっかり働いてほしい場合や、中長期の雇用を考えている場合は正社員・契約社員が望ましいでしょう。契約社員と正社員の違いは、法律において「契約期間が定まっているか」という点のみです。

契約社員のほうが、雇用主から見たときの雇用の柔軟性は高いといえますが、労働者にとってはいつ切られるかわからないリスクがあります。正社員に比べると求人の応募が集まりにくい点は考慮しておきましょう。

業務委託は労働基準法の適用外となる

個人事業主のなかには、業務委託の契約を結んで働いている人も多くいます。業務委託は、会社に雇われるのではなく、社外の人間として業務を遂行する働き方です。法律上も社外の人、外注スタッフの扱いになります。

そのため、業務委託で働く人は雇用契約を結んだ会社員とは異なり、労働基準法などの適用がありません。業務委託に支払う報酬は外注費として経費処理するため、その点も雇用契約を結ぶケースとは異なります。

労働基準法については、「フリーランスと労働基準法」も参考にしてみてください。

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個人事業主が従業員を雇用するときに必要な手続き

ここからは、従業員の採用が決まったあとに必要な手続を解説します。

労働契約の締結

個人事業主・フリーランスが従業員を雇用する際には、労働契約書を締結する必要があります。また、法定三帳簿と呼ばれる帳簿の用意も必要です。それぞれについて詳しく解説します。

労働契約書の準備

雇用形態を決めて人材を採用したら、まずは労働契約を交わします。雇用形態に関わらず必ず書面で行うようにしましょう。労働基準法で定められている労働条件は書面での明示が必要となるので、労働契約書には以下の労働条件を必ず盛り込みます

必須項目となる労働条件は、以下のとおりです。

契約期間
契約更新の基準(契約期間に定めがあり、更新することがある場合)
業務をする場所、業務内容
業務の始めと終わりの時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日・休暇、交替制勤務のローテーションなど
賃金の決定、計算と支払いの方法、締切と支払日の時期、昇給に関する事項
退職(解雇の事由を含む)について


退職手当や賞与など、別途定める項目がある場合はそれらも記載しておく必要があります。詳細は厚生労働省のホームページを確認しておくようにしてください。

参照 : 厚生労働省「採用時に労働条件を明示しなければならないと聞きました。具体的には何を明示すればよいのでしょうか。」

法定三帳簿の作成

人を雇ったら、「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿(タイムカード)」を作成しなくてはなりません。これらは「法定三帳簿」と呼ばれ、記載すべき項目も法律で定められています。法定三帳簿は労働保険の申請時に必要となり、3年間の保存義務があるものです。

他にも、雇用主と従業員の間で誓約書を交わすことがあります。誓約書の内容は企業によって異なりますが、主に次のような項目が盛り込まれるようです。

  • 就業規則を守る
  • 業務命令に従う
  • 個人情報・顧客情報を漏えいさせない

社内業務を円滑に進め、情報漏えいを防止したり不正を抑止するためにも、雇用の前段階で誓約を交わしておくのが得策です。「機密保持契約(NDA)って何?フリーランスが知っておきたい契約に関する基礎知識」もあわせて読み、セキュリティへの理解を深めてください。

労働保険に関する手続き

労働保険とは、労災保険・雇用保険の総称です。それぞれの加入条件や、どのような手続きが必要かを見ていきましょう。

労災保険の加入条件と必要な手続き

労災保険は、労働者が業務や通勤が原因でけがや病気をした際に療養費用や休養費用を補償するための制度です。

労災保険は原則として雇用形態を問わず加入の義務があり、雇用保険は一定の基準に合致した場合に加入手続きを行う必要があります。雇用する側の個人事業主は加入対象外です。

労災保険の加入手続きは、従業員を雇用した日(事業開始)の翌日から10日以内に、労働基準監督署に「保険関係成立届」を提出します。

関連記事:個人事業主の労災保険
参照 : 厚生労働省「保険関係成立届の記入見本」

雇用保険の加入条件と必要な手続き

雇用保険は、労働者が失業した際に一定期間の生活を保障する制度です。1週間の所定労働時間が20時間以上で、かつ31日以上引き続いて雇用される見込みのある人が加入します。雇用主は加入対象外です。

従業員を雇用した日の翌日から10日以内に、公共職業安定所(ハローワーク)に「雇用保険適用事業所設置届」を提出します。加えて、従業員を雇用した月の翌月10日までに、公共職業安定所(ハローワーク)に「雇用保険被保険者資格取得届」を提出しておきましょう。

この際、賃金台帳、労働者名簿、出勤簿もしくはタイムカードなどの添付書類を提出するため、手続きまでに準備をしておく必要があります。

参照 : ハローワークインターネットサービス「雇用保険適用事業所設置届」「雇用保険被保険者資格取得届

社会保険(健康保険・厚生年金保険)に関する手続き

社会保険に含まれるのは、健康保険と厚生年金保険です。健康保険は、業務外でのけがや疾病に対してその医療費を補てんする制度。一方の厚生年金は、労働者が老齢や障害、死亡といった保険事故により所得を喪失した場合、本人や家族の生活の安定を保障する制度を指します

健康保険も厚生年金保険も、加入条件や書類提出場所、手続きは同様です。個人事業主が労働者を雇う場合は雇用形態や人数によって、任意加入を選択できるケースと強制加入となるケースがあります。

個人事業主が雇った常勤社員が5人未満の場合、任意で社会保険に加入できます。その際、従業員の半数以上が社会保険の適用事業所となることに同意し、事業主が申請して厚生労働大臣の認可を受ける必要があります。

一方、個人事業主が雇った常勤社員が5人以上になった場合、社員は社会保険に強制的に加入させることに。常勤以外のパートタイマーでも、1日または1週間の労働時間および1カ月の労働日数が、通常勤務者(正社員)の4分の3以上の労働者は適用されます。

従業員を採用してから5日以内に、「健康保険・厚生年金保険新規適用届」「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を年金事務所に提出します。被保険者に扶養家族がいる場合は「健康保険扶養者(異動)届」を提出しましょう。

参照 : 日本年金機構「健康保険料・厚生年金保険料に関する手続き」

税金に関する手続き

従業員に給料を支払うことになったら、給料から所得税を天引き(源泉徴収)して、税務署に納める手続きが必要です。そのためには、従業員を雇ってから1ヶ月以内に、税務署に「給与支払事務所等の開設届出書」を提出します。

参照 : 国税庁「[手続名]給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出」

源泉徴収税額と納付方法

事業主は給与や賞与の支払いの都度、源泉徴収を行って国に納め、年末調整で1年間の所得税額を再計算し、過不足を調整することが義務付けられています。給与などから源泉徴収して国に納める所得税を「源泉所得税」といいます。

源泉所得税額の基準となるのは、手当や残業代を含めた給与から社会保険料などを引いた金額です。この金額を基に「給与所得の源泉徴収税額表」から、源泉所得税額を求めます。

源泉所得税は実際に給与などを支払った翌月10日が納期限です。ただし、給与などの支払いを常時行う従業員が10人以下の場合は、特例の適用を受けて、1月~6月分を7月10日、7月~12月分を翌年1月20日を納期限として、年2回にまとめて納付できます。

特例の適用を受けるには、所在地を管轄する税務署に「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」の提出が必要です。

参照 : 国税庁「令和2年分 源泉徴収税額表」
参照 : 国税庁「[手続名]源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請」

住民税の特別徴収と普通徴収

住民税は前年の所得にかかる税金で、従業員の1月1日の居住地に対して納めます。住民税は所得割と均等割を合わせた金額です。

所得割は標準税率で「(前年の総所得金額等-所得控除額)×税率10%(内訳:市町村民税6%+道府県民税4%)-税額控除額」という計算式で算出できます。均等割は一律で「市町村民税3,500円+道府県民税1,500円=5,000円」です。

住民税の納付方法には、給与を支払う事業主が天引きして納付する特別徴収と、従業員本人が納付書で支払う普通徴収の2種類があります。所得税の源泉徴収義務がある事業主は、住民税も特別徴収で納付することが義務付けられています。

東京都の市区町村の場合は、毎年1月31日までに従業員が居住する市区町村に給与支払報告書を提出し、5月31日までに特別徴収税額決定通知書を受け取って従業員に配布します。そして、毎月の給料から差し引いた住民税額を翌月10日までに市区町村ごとに納付書で納入するという流れです。

ただし、常時雇用する人数が10人以下の場合は、市区町村長の特例の承認を受けて、6~11月分を12月10日まで、12月~翌年5月分を6月10日までを納期限として、年2回の納入にできます。

参照 : 東京都主税局「個人住民税と特別徴収について」

給与の仕訳

従業員に給与を支払ったとき、控除した源泉所得税や社会保険料は分けて記載します。具体的な記載は以下のとおりです。
<例:給与20万円、源泉所得税5,000円、住民税7,000円、社会保険料3万円、雇用保険料1,000円のケース>

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
給料手当
(給料賃金)
200,000円 現金(預金) 157,000円 7月分給与
    預り金 5,000円 7月分源泉所得税
    預り金 7,000円 7月分住民税
    預り金 30,000円 7月分社会保険料
    預り金 1,000円 7月分雇用保険料


税金や保険料を支払ったときは、保険料は事業主負担分と従業員負担分を分けて記載します。

<例:社会保険料6万1,000円(健康保険料2万円、厚生年金保険料4万円、子ども・子育て拠出金1,000円)、住民税7,000円が引き落とされた場合>

借方勘定科目 借方金額 貸方勘定科目 貸方金額 摘要
法定福利費 31,000円 普通預金 61,000円 7月分社会保険料
(事業主負担分)
預り金 30,000円     7月分社会保険料
(従業員負担分)
預り金 7,000円 普通預金 7,000円 7月分住民税


税金の計算方法を知りたい方は、「個人事業主が納める税金の種類|計算方法や税金総額のシミュレーションを紹介」をご確認ください。

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個人事業主が家族を雇うときの手続き

個人事業主が自分の家族を雇うときは、一般の人を雇うときとは手続きが異なります。

青色事業専従者給与に関する届出を提出する

青色申告する場合は、家族への給与を必要経費にすることが可能です。居住地の税務署に「青色事業専従者給与に関する届出・変更届出書」を提出して手続きをします。提出期限は、給与を経費に計上する年の3月15日までです。

参照 : 国税庁「[手続名]青色事業専従者給与に関する届出手続」

白色申告の場合は事業専従者控除を受ける

白色申告では給与を経費にできません。しかし、事業専従者控除は適用されます。専業専従者とは、白色申告をする人と生計をともにする配偶者や15歳以上の親族であり、年間6ヶ月以上事業に従事している人のことを指します。

事業専従者控除を受ける条件は、以下のとおりです。

  • 白色申告する人の事業に事業専従者がいる
  • 確定申告書に控除を受ける旨、および金額などを記載する

参照 : 国税庁「No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除」

一定の条件を満たしたら労災保険に加入する

家族が労災保険に加入できるケースもあります。同居する親族以外にも従業員が働いている、勤務時間や給与の支払い方法が一般従業員と同じ、などが条件です。

参照 : 厚生労働省「労災補償」

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個人事業主の雇用調整助成金

雇用調整助成金とは、経済上の理由(景気や産業構造の変化の影響を受けるなど)で事業縮小を余儀なくされる事業主が、休業や出向、教育訓練などの雇用調整を実施して従業員の雇用を維持した際に助成を受けられる制度です。

雇用保険が適用される事業主が対象となるため、個人事業主も条件に合致すれば、助成を受けられます。

雇用調整助成金の助成額は、休業手当や教育訓練を行ったときの賃金相当額、出向元事業主の負担額は中小企業の場合2/3、中小企業以外は1/3で、1日8,330円が上限です。また、教育訓練を実施したときは1人1日当たり1,200円が加算されます。

また、新型コロナウイルス感染症の影響によって事業の縮小を余儀なくされた事業者が、労使協定に基づいて休業を行う場合は、1日1万5,000円を上限に最大で休業手当などの10/10を助成するという特例が設けられています2022年11月30日まで)。

参照 : 厚生労働省「雇用調整助成金」

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雇用調整助成金以外の支援制度

2022年10月時点では、新型コロナウイルス感染症による影響に対して雇用調整助成金以外にも以下のような支援制度があります。

  • 新型コロナウイルス感染症特別貸付(日本政策金融公庫)
  • 新型コロナ対策資本性劣後ローン(日本政策金融公庫)
  • 小規模事業者持続化補助金
  • IT導入補助金

この他、都道府県や市区町村独自の支援制度もあります。たとえば、東京都の「業態転換支援事業」のような制度です。

※個人事業主の給付金や助成金に関する最新情報は、政府・官公庁・各自治体などの発表をご確認ください。

フリーランス・個人事業主の新型コロナウイルスに関連する支援(給付金・補助金・助成金など)」でも雇用調整助成金以外の支援制度について解説しているので、チェックしてみましょう。

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個人事業主の従業員雇用手続きに関するよくある質問

個人事業主の従業員雇用手続きに関するよくある質問と、その回答を以下にまとめました。

Q.個人事業主が従業員を雇用するときの雇用形態にはどんな種類がありますか?

A.主な雇用形態には「正社員」「契約社員」「パート・アルバイト(短時間労働者)」があります

正社員とは、一般的に期間の定めのない労働契約を締結している者を指し、契約社員とは、期間の定めのある労働契約を締結している者を指します。パート・アルバイト(短時間労働者)は、パートタイム労働法の中で「1週間の所定労働時間が同一の事業主に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者」と定義されています。

Q.個人事業主が従業員を雇用するために契約書を交わすときの注意点は何ですか?

A.従業員を雇用するときには、契約期間に関すること、期間の定めがある契約を更新する場合の基準に関すること、就業場所、従事する業務に関すること、始業・終業時刻、休憩、休日などに関することなど、原則として従業員に書面で交付しなければいけない項目が労働基準法で定められています

また、退職手当に関すること、賞与などに関することといった、定めをした場合に明示しなければならない項目もあります。

参照 : 厚生労働省「労働基準法の基礎知識」

Q.個人事業主が従業員を雇用するとどのような保険の加入手続きが必要になりますか?

A.個人事業主が従業員を雇用したとき、従業員が加入するべき保険には、雇用保険や労災保険、健康保険、厚生年金保険があります。加入条件は保険の種類によってそれぞれ異なるので要注意です。

たとえば、雇用保険は、31日以上引き続き雇用されることが見込まれ、1週間の所定労働時間が20時間以上の従業員が被保険者となります。

※本記事は2022年10月時点の情報を基に執筆しております

最後に

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